相撲基本体操(大日本相撲協曾):Awakening the Body:町の按摩さん.com

相撲基本体操(大日本相撲協曾)

  1. はじめに 序 相撲基本體操に就て 序 例言
  2. 深呼吸 契り之型 四股之型
  3. 伸脚之型 仕切り之型 攻め之型
  4. 防ぎ之型 四つ身之型 反りの型
  5. 均整之型 方屋入り之型

 

 

 

 



はじめに

元・一ノ矢さんの著作を読み、相撲の基本的な稽古である腰割りや四股、テッポウなどをはじめてみたら、その即効的な効果もさることながら重力や重心を感じ取る稽古の奥深さに驚きました。

その後、国技館で販売されている「相撲健康体操DVD」を購入して、その基本的稽古を独学で試行錯誤しています。

ある日フト、時々利用させて頂いている国会図書館の近代デジタルライブラリーで検索してみたところ、昭和8年大日本相撲協会発行の「相撲基本体操」がヒットしました。

読んでみると、この「相撲基本体操」が初めて世に出た相撲体操とのこと。
現在相撲協会ホームページで「相撲健康体操DVD」と内容が同じ「相撲健康体操 イラスト図解」(PDF)を見ることが出来ますが、大日本相撲協会発行「相撲基本体操」と多少異なる箇所があり、この相違もとても興味深いです。

近代デジタルライブラリー - 相撲基本体操:大日本相撲協会

相撲健康体操DVD:国技館サービス部

相撲健康体操 イラスト図解:相撲協会

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なお、当ホームページに国会図書館近代デジタルライブラリーの画像を転載するにあたり、国立国会図書館 電子情報部 電子情報流通課 情報流通係より正式に該当画像転載許可を頂いています。(国図電 1301044-1-2359 号 平成25年6月4日)

大日本相撲協曾・序

相撲は神代以來の我が國技で.其の傳続に生きた歴史的價値を有するのみならず、之を體育方面から見ても、心身の鍛錬に適合した、獨特の競技である事は今更贅言を要せぬ次第である。
最近二回に亙りて畏くも天長の佳節に當り大内山の土俵に親しく天覧を賜はりしは、相撲道の榮譽、之に過ぎたるはなく、本協曾が愈々この輝かしき、國技の向上に精進し國民體育の進歩に徽力を捧げ來りしは、些か以て誇りとする次第である。
然れざも時代の波は、從來の保守的傳統的主義を許さず、爰に相撲道の精神を鼓吹すると同時に、容易に斯の道に入り得る、豫備数育を一般に普及する必要を認むるに至つた。
これ今般我が協曾員、並に體育界の有力者との研究になつた、相撲基本體操を祉曾に發表して、汎く其の普及發達を企圖する所以である。

此の體操は所謂四十八手入門の最捷径を敎へ、而も其の動作の一つ一つに、斯道の意義ある、精神が織り込まれてある。
人若し、順を逐ふてこの蓮動を修錬せば、三十六俵の土俵上に、浩然豪快なる氣分と、全身の脈管に高鳴る血潮の躍動とを満喫し、心身頓に爽快を覺ゆるのを經験するであらう。
尚之を長時日繼續して、練習する時は漸次身體を柔軟、機敏ならしめ、禮力を増進する効果偉大であつて、國民保健、精力滋養に貢献すること、至大なる國粋體操と言ふべきである。
本體操が大方諸彦の御批判と、御賛同とを得、國民精神の作興、並に其の體位の向上に、貢献するを得ば、誠に光榮とする次第である。

昭和八年五月
財團法人
大日本相撲協曾

相撲基本體操に就て

總ての強い競技運動は十分なる準備運動を要する。之れは力量技能を十分に發揮する爲にも、叉、保健上疲勞を輕減し且つ外傷を豫防する爲にも必要なことは生理學の證明する所である。
然れば近時長足の進歩を遂げつゝある我が國の競技界に於て、之が研究及び實行が大いに面目を改めて來たことは當然である。
我が國技の一つたる相撲は最も強激な競技運動と見るべきであるが、從來、相撲の競技に對しては軍に傳統的の契りの型、四股の型、仕切の型等を一通り行ふに過ぎないのであつた。

私は從來相撲の競技を観る毎に、仕切り直しの度數を重ねる場合には是等か相富な準備蓮動こなるが、然らざる場合には準備蓮動が不足する結果となることを憂へて居た。
相撲競技は眞に男性的であり、素朴であり、正々堂々たる點に於て私の最も好む國技であるが、之を適切に練習するときは體質を強壮ならしむる効果大なるとを生理學上より確信し體育上之を重要視して居るのである。
然るに本運動のーの缺點は外傷を起し易い點にある。
私は以前より此の點に氣付き、その改善につき希望を有して居た。

此の度、大日本相撲協曾が相撲の準備運動として考案された相撲基本體操を見るに相撲道固有の型を十ー種選び之を巧みに配合して一の體操を編成したものであり、之により四肢、胴體殊に下肢の諸關節を柔軟ならしむる効果大なるを認める。
叉、動作が下肢の大筋群を使用すること多き爲、肺臓.心臓、副腎等の内臓並に腺器官にも相當なる刺激を與へ、叉、一氣的な連合運動により神経系統を十分に覺醒、興奮せしむるの効果大なりと考へられるので相撲競技の準備蓮動としてまことに有効ならんと考へるのである。
殊に、本體操が悉く本邦國技たる相撲の型に材料を選んだことは純國産である點に於て特に意義深いものがある。
而して考案者の經験によれば、本運動をよく練習するときは、本競技に於て外傷を起す危険なく、叉、疲勞を感ずること少く、準備運動として効果を發揮するのみならず、競技能力を増大することが大である。
又相撲の本競技を爲し得ない者はこの體操を繼續練習することにより遂に良く競技に堪へ得るに至るとのことである。
即ち、本體操は廣く國民の身體を強壮にし、體育上の効果を擧ぐること大なりと云ふべきである。
余は未だ本體操につき生理、衛生上より實験するの機曾を得ないが、ー、二の實験報告を参考し、この事を確信するものである。

本運動を、體操獨自の見地より見れば、尚多少の意見もあらう。
即ち私は本運動を以て純體操の見地よりする最善なる準備運動と云ふのではないが十一種の體操的なる相撲の型を、巧みに編合して合目的なる一連の國産體操を研究完成された大日本相撲協會の努力に對しては私の専問學の見地より衷心敬意と感謝とを表する次第である。

希くば本體操の適切なる運用により一は以て國技の進歩に、一は以て國民體育上に一層の貢献を爲されんことを。

昭和八年四月
醫學博士吉田章信

東京市高等小學校體育聯盟・序

相撲は我が肇國以來の國技である。
司家の相撲略傅にも、見える通り「我國相撲之技藐権奥手神代矣日神細開磐戸時云々」とあり。
歴代天皇亦畏くも國技として御奨励になり、相撲節會を行はせられ、屡々天覧を辱うした。
垂仁帝の御字に野見宿彌、當麻蹶速と御前に勝敗を決せし如きは、餘りにも顯著な史實である。
我々の祖先は此の國技を好み、よく培ひ、よく養ひつゝ發達せしめて、我が國特有の技としたのである。

世人稍々もすれば、相撲はスポーツにあらずして蠻勇を振ふ未開の技なりと言ふものあれど、力士一度士俵上の人となるや、私情を去り無我の境に立ち、正々堂々の技を競ふこと、恰も神前に合掌せる時の心境の如く、高潔是れに此すべきものなし。
「其力雖若羆熊而禁充選」とは牛、犬の争ひの如し。
力を角するにあらずして道に從つて技を競ふので、「或至死傷或争闘者毎有之是角力也非相撲也」とは鉞言である。
故に相撲たるや力士の獨占の技にあらずして八千萬國民の等しくなすべき心身修道の機關である。

然るに明治維新と共に欧米の文物は輸入せられ、物質文明は東洋精神文明を蝕みつゝ數十年、其の間運動競技に於ても、我が國固有の武士道の精神を、汲める相撲道を、破壊に導かんとする傾向あるは、誠に歎かはしき事である。

今回大日本柑撲協會、並に體育會の有力者により、斯道普及のため研究發表されたる、相撲體操は、其の基本に於て名を示すが如く四十八手の型に、典ると共に、相撲道の精神をも織り込めるもので、これを實行する事により、全身の脈管躍動し、心神頓に壮快を覺ゆとは、體驗者の等しく認むるこころである。
まことに斯道入門の準備蓮動としては、此の上なき好指針なり。
これを、學校體操の上に採り入るゝとも、敢て不可なきと信ずるものである。

現在の青小年には將來に於て、尚發展せる國家を、要求せねばならぬ。
其の爲には健全なる精神と健全なる身體こそ、望ま對きものである。

この意昧に於て最も、民族的、民衆的に有意義なる相撲を推奨すると共に今回發表されたる相撲體操の實施を推奨して措かないものである。

昭和八年五月
東京市高等小學校體育聯盟

例言

一、相撲道を基本となす體操は、從來本協會員間に、之を考案教修するものなきにあらざりしも、其の方法區々に亘り互に長短あるを憾とせり。

一、從來區々たりし相撲體操を今回體操專門権威者と謀り、相撲協曾に於て、之を研究統一することとせり。

一、本體操については、主として協會員佐渡ケ嶽この衝に當り、外協曾員此れを援助し、本案を作成せり。
然れども、尚研究改善の餘地あらん、そは將來の研鑽に待たんとす。