「操体法の学び方」基礎編


(「操体・SOTAI」1986.6 第2号収録)
小松田禎



操体を勉強するということは難しいとことだと思います。
まず第一に原理が簡単すぎるということと(一見あい反するように見えますが)奥が深すぎる、というギャップがあるからだと思います。
つまり、原理が簡単すぎて応用するということが出来ないということです。


例えば


・両膝倒しなら楽な方に2回フィード・バックして感覚がもどらなかったら別の操法で両膝倒しの感覚をそろえるということが出来ない。


・膝の裏の圧痛を足首の背屈のみでとろうとする。


・何がなんでも動かさなければならないと錯覚する。(気持ちのいいことなら何をやってもいい=気持ちのいいことはみんな操体だ)


等ということがあげられます。


第二に操体は患者の感覚を最優先するという治療法で、患者にとっても治療者にとってもあまり一般的ではないということがあると思います。
つまり「施術者=治す人」「患者=治される人」という図式があてはまらない治療法なので、どうしても治療者の感覚が入り込み、経験にものをいわせた操法になりやすいということがあると思います。


そしてそれにより患者と操者の感覚のズレが生じ、行詰まり、結局
『治らない』
『治せない』
ということになるのです。
このような事柄をふまえて『操体の学びかた』について基礎編、応用編、展開編に分けて考えていきたいと思います。


まず基礎編では操体を知るうえで大切と思われることがらを大まかに分けて説明していきます。
ガイド・ライン的なものとしてとらえてください。
応用編では臨床に基づいた操体ということで、基礎編のことを詳しく堀下げていきたいと思います。
展開編では操体を単なる治療医学としてとらえるのではなく、一つのフィルター、一つの媒体としてとらえ、どのような活用の仕方、生かし方があるかを考えていきたいと思います。


操休の大原則『快に従う』ということは周知のことであるし、一つの自然の法則であることは間違いありません。
が、しかし、一足飛びでそこにたどりついた場合、多くの勉強の場で(特に臨床)で行詰まるということにつながりやすいようです。
そのような問題に出会ったとき立ちもどれる基本とはどういうことでしょうか?
橋本先生が『快に従う』という一つの自然の法則に出会うまでの過程を見ればそれは一目瞭然であるし、治療家として治療を業としようとするならば知らなければならないこと、体得していなければならないことがいくつかあります。
そしてそれが基本となります。
それを挙げれば


1、基本的な操法
2、連動のパターン
3、補助抵抗(操者の位置どり)
4、言葉の誘導(よりスムースに動かす)
5、視診・触診



となります。
最低この五つを習得していなければ、治療にあたるということは考えられません。では一つ一つについて考えてみましょう。




1、基本的な操法
ここでいう基本的な操法というのは臨床でよく使われている操法をいいます。
人間を一つの関節と考えた場合、8方向の動きに分類できます。


前後
左右屈
左右捻転
遠・求心性
の8つです。


体幹を例にとって運動分類すれば
前屈・後屈
右側屈・左側屈
右捻転・左捻転
牽引・圧迫

になります。


これはそのまま基本的な操法につながります。


★代表的な前後屈の操法

Uploaded Image: manabi1.gif



★代表的な左右側屈の操法

Uploaded Image: manabi2.gif



★代表的な左右捻転の操法

Uploaded Image: manabi3.gif



★代表的な牽引・圧迫の操法

Uploaded Image: manabi4.gif







2、連動のパターン
運動系は全系統的に連動装置になっています。
一箇所の歪みが局所に止まらないように、整復運動も局所運動には止まりません。
そしてその連動のパターンも基本的には8分類できます。


こまかい連動のバターンの分析は不可能です。
なぜなら一人一人の歪みかたは違いますし、それに伴う時間的・空間的な違いもあるからです。




3、補助抵抗(操者の位置どり)
補助抵抗について紙上に記すことは無理があります。
患者ごとに使いわけなければならないということと、患者の感覚が変わる度に抵抗を変えなければならないということがあるからです。
(結局患者に聞くことが一番のようです)
操者の位置どりについては2.の連動バターンと大きく関係してきます。
連動パターンを知っていれば患者がどう動いてくるか充分予測でき、動きの邪魔をせずに操者も楽に操法を行なうことができる位置どりができるようになります。
操者が楽に自然に動けるということは、患者にとっても楽に自然に動けるということにつながります。




4、言葉の誘導(よりスムースに動いてもらうために)
言葉の誘導も連動ということをしっかり頭に入れておかないといけません。
もちろんキメツケはよくありませんが、ある程度の指標を示さなければ初めての患者は動けません。
"最終的には患者の動きを自由にしてやる"という目的意識を持つことが大切になると思います。
又、操者の言葉が多すぎても患者の動きを阻害することがありますので注意しなければならないと思います。



5、視診・触診・動診
治療師としてやっていく上で、視診・触診を適確に行なえるということは必要条件になります。
患者には固有の歪みがありそれを見つけられる事が一番でしょう。


順番としては先ず視るということから始めます。
左右を比較して、周囲と比較して歪みを発見していきます。


視診であらかじめ歪みを発見しておき、それから触診で確認します。
触診をすることにより患者に潜在的な圧痛(歪み)があることを自覚させます。
触診をしながら操法をおこない圧痛の有無を確めるのも効果が有ります。


動診は快・不快を確認するというのが最も基本となります。
ここで特に注意しなければならないことは視診です。
形をみるのでどうしてもとらわれやすくキメツケやすいので気をつけて下さい。
触診も患者の感覚に従うのが一番でしょう。
押されて痛みを感じる域値は人によりかなりの幅があるので無理な触診はしないようにしましょう。


「操体法の学びかた」と題して自分なりに簡単にまとめてみました。
これはもちろん"私なりの"という事であって"こうすべきだ""これが基本だ"というものでは決してありません。
できるだけ多くの先生方の意見、感想を期持しています。
次回は応用編として、基礎編で拠りどころとしていた"パターン"を消す作業を進めていきたいと思います。