「操体法の学び方」応用編


(「操体・SOTAI」1986.8 第3号収録)
伏見起樹



前回の基礎編で『操体法の学び方」が5つの項目に分類されて説明されました。
今回はその応用編ということで、さらに深く掘り下げてみたいと思います。




1.基本的な操法の応用
「基本的な操法」を前回は「臨床でよく使われる操法」としました。
今回はその臨床でよくつかわれている操法、ある一つの操法をどの様に応用していくかを考えてみます。


例えば、両膝傾倒(仰臥位で両膝を立て、左右に倒す)で左右のバランスがとれないり場合等、どのように対処していくか。
また、その応用的な動きを知る事は一つの操法についての理解を深める事にもなると思います。
以下、両膝傾倒を例にとって進めていきます。


●基本操法


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まず、両膝を右と左に倒してみて快、不快を確認します。
ここでは、左側を快方向と決めますので、両膝を快方向の左側に倒すことになります。


●応用


1.不快方向から快方向へのフィードバック


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あらかじめ両膝を不快側に倒しておき、そこから快方向に動かします。
(応用として挙げるまでもない、一番操体法らしい基本的な方法ですが、忘れ勝ちなので挙げてみました。)


2.不快方向にとっておき別の部位を動かす


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両膝を不快側にとっておき、例えば左右の肩を頭の方向に挙上してみて、快側を挙上します。
もちろん他の部位(頭、腰、手など)でもOKです。


3.角度を変える


A.股関節の縦方向への角度
B.股関節の横方向への角度
C.AとBの複合


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この他にも応用は多々あると思いますが、大体以上の3つが代表的だと思います。
ここでは両膝傾倒を例にとりましたが、他の操法にも当てはめて考えてみて下さい。







2.連動(補助抵抗、言葉の誘導)
同じ症状であっても、その人その人によって性格が違うように歪み方も違います。
それはつまり、その人その人によって歪みを正す気持ち良い動きも違う、という事を意味します。
『ある症状、ある部位のコリに対する操法」というように、操法を経験的、統計的に一股化、バタ-ン化していくのも一つの方法ですが、ここでは「いかにその人に合った動き、連動を引き出すか」について考えてみます。


基礎編では連動、補助抵抗、言葉の誘導はそれぞれ分けて考えましたが、ここでは連動の為の補助抵抗、言葉の誘導と考えてみます。
(補助抵抗については前号で今、三浦、両先生が書いていますで、それを参考にして下さい)


(1)キッカケとしての操法
基礎では、両膝傾倒は最初から最後まで両膝傾倒だと考えました。
しかし、ここでは一つの操法はあくまでキッカケに過ぎないと考えます。
「両膝を倒す」という行為をキッカケにして`その人に合った気持ち良い動きを引き出すのです。
極端に言ってしまえば『それが気持らの良い動きなら、どんな動きになってもいい」という事になります。


(2)フィードバック装置としての操者
いわゆる”健康”といわれる人達でも自分の体を自由に気持ち良く操れる人というのは多くありません。
ましてや、それが"患者"となるとなおさらです。
そこで操者は患者が『より気持ち良く、より自由に動く」為に、操者自身の感覚をフルに活用して慰者の動きの情報を取込み、それを患者にフィードバックしてあげ
て患者の動きの可能性を引出さなければいけません。


そこで操者を一つのフィードバック装置として考えてみよ
す。
情報の入力は操者の視覚(動きを観る}、聴覚(気持ちいいか聞く)、触角(補助抵抗)。出力は操者の言葉、そして補助抵抗になると思います。


A.視覚
どんな動きであっても人体は必ず連動しています。
患者がキッカケとなる動きを始めたら、連動している箇所を体全体にわたって観ます。
今現在連動しはじめている部分の動いている方向をピックアップして患者にフィードバックしてあげます。
例えば、両膝傾倒で首が動き始めたら『首を右に捻ってもいいですよ」というように、患者の無意識の動きを意識化して連動をよりスムーズにしてあげるのです。

ただ、ムカデの足のたとえ話のように、これ以上動かしたくない部分をピックアップした場合や、言葉が強制的だった場合、動きがかえってギコチなくなるという事
もあります。


言葉も動きを意識化させ、なおかつ患者自身がその動きを選択できるように工夫する必要があります。


B,聴覚
これは始めに操者の間いかけがある訳ですが、今現在の動きが"気持ち良いのか、そうでないのか"を聞きます。
気持ち良いのだったらその動きを促進するような言葉を与え、そうでなかったらもっと動きを選択するような言葉を与えます。


その動きが「気持ち良いのか」問いかける事は、患者自身が今現在の動きの感覚を再確認することにもなります。


C.触角
これは、補助抵抗をかけている操者の手で感じる感覚です。
入力として患者の動きの強さや方向を感じとり、出力としてそれに応じた適切な抵抗を与えます。
適切な抵抗を与える事は、患者自身が動きの方向、感覚をより明確に把握できる事になり、動きが安定した気持ちの良いものになります。


操者が抵抗を与えている部分の、患者にとって最も気持ちの良いコ一スを仮に図1とした時、操者が決め付けで図2のようなコースに抵抗を与えたとすると、患者の動きはそれに対応する図3のような動きになってしまいます。


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抵抗は、あくまで患者の動きが主であって、それに付いて行くといった心がまえが必要です。


また、抵抗の強さも強過ぎては動きを制限してしまい、弱過ぎては安定感がなくなってしまいます。
動きの方向、強さを適切に感じとり、それを患者に適切にフィ一ドバックする為には、操者は手先だけで抵抗を与えるのではなく、体全体で患者と一体になって動く事が必要となります。